白鯨の数学
火曜の朝はなかなか起きられないなあ… ここ最近考えていたテーマに全く進展がないので、 しばらく棚上げにしていた、もっと具体的な問題に戻ってみる。 具体的な問題は焦点が定まりやすくて精神衛生上好ましい。 かなり忘れていたので、 今日は何をやっていたか思い出すのが精一杯。 ところで、ある問題をやっていて進展がないので、 こっちに戻ってこの問題をやって、また進展がないので、 またあっちの問題に戻って…、 の振り子状態のあげく何の進展もどこにも見当たらない、 と言うのが私の典型的な症状だ。 世間で言うところの「堪え性がない」性格らしい。 これもまた数学には向いていない。 数学者は蛇のように執拗でなくてはならない。 そうでなくては解くに値する問題が解けることはない。 最近、自分の性格や能力を省みるに、 つくづく数学に向いてないところだらけだと思う。
夜の読書。「白鯨」の岩波文庫版の下巻。 この「製油かまど」の章には、非常に深い数学的性質の記述がある。 「…サイクロイドの軌跡をえがいて滑降するあらゆる物体が、 (中略)、任意の一点からもっとも低い一点に達するのに要する時間はつねに一定である、 という驚くべき事実に、わたしは初めて気づいた」。 つまり、振り子時計の原理が正しく成立しているのは、 サイクロイドであって、普通の振り子運動ではない。 この blog を読んで下さっている方々には数学方面の人が多いと思いますが、 この事実を知っていましたか? 振り子が同じ時間間隔で反復運動をする、のは近似においてに過ぎない。 そして、実際に等時性を持つ曲線は、 言わゆる「アーベルの力学問題」を解くことで得られ、 その解はサイクロイド曲線になる。 このことを最初に導いたのは、ホイヘンスである。 ホイヘンスは実際に、 振り子の錘がサイクロイド曲線を描くようにした完璧な振り子時計を 作ろうとしたのだが、 単に普通の振り子に誤差を訂正させるようなギミックを入れる方が、 実質的には正確な時計が作れることに気付いた、と言う。 つまり、数学的に最もエレガントな解は時に現実的でない。 以上の数学については、「フーリエ解析大全 演習編(下)」 (ケルナー著/高橋・厚地・原訳/朝倉書店) を参照のこと(どうやら宣伝だったらしい!)。
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