四月馬鹿
もう四月。一年って本当に早い。 引退までついに後、五年。 それまでは一所懸命に働こう。 引退した後は老いた身体を労わりながら、 別れた妻と愛人たちと娘たちの成長を見守りつつ、 第二の人生として、 まあまあのチェスプレイヤーになり、 そこそこのチェロ弾きになり、 ほどほどのテキストハッカーとして知られ、 とんとんくらいのヘッジファンドをしたい。
「…それに、このさき残っている時間は、今までより少ないかもしれない。そんな状態で、
これまでの積み重ねをすべて捨ててしまうことは、なかなかできるものじゃない」
「すべてを捨てるわけではないわ。自分はここにいる。叔父様が三十六年間で築き上げたほとんど
すべてのものが、今、この車に乗っているのよ。しがらみというのは全部、叔父様以外のものです」
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