私の心の冬
本当に足元がふらついてきた。 もう学生もほとんどいない、 熱波に包まれた真白に輝く真夏のキャンパスを移動していると、 一瞬気が遠くなり、幻が見えた。 涙さえも凍りつく白い氷原で、 雪に迷う馴鹿の悲しい瞳と目があった。 それでも、何とか今日中に採点を終えねばと、 夕方から最後のもう一頑張り。 兎に角、後一日働けば週末だ。
夕食は素麺。生姜のみ。
「…それに、このさき残っている時間は、今までより少ないかもしれない。そんな状態で、
これまでの積み重ねをすべて捨ててしまうことは、なかなかできるものじゃない」
「すべてを捨てるわけではないわ。自分はここにいる。叔父様が三十六年間で築き上げたほとんど
すべてのものが、今、この車に乗っているのよ。しがらみというのは全部、叔父様以外のものです」
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