Thursday, July 12, 2007

嘘つきな友人の問題

今日は講義でこんな話をした(二進情報経路の例として)。 貴方は合格か不合格の結果を待っている。 90 パーセントの確率で合格するのだが、合格発表を見に行くのが怖い。 そこで友人に結果を見に行ってもらうことにした。 しかし、困ったことにその友人には虚言癖があり、 70 パーセントの確率で本当のことを言ってくれるが、 残りの確率で嘘をつく。 この友人が「合格だったよ」と言うのだが、 このとき本当に貴方が合格している確率は何パーセントか?

これと本質的に全く同じ問題が、 日常生活を含めあらゆる所で現れるのだが、 多くの人は全く間違った判断をしてしまう。 と言うのも、何故か、 ほとんどの人は証言者の信頼度を、求める確率だと思ってしまうのだ。 上の問題の場合だと、 この 70 パーセント信頼できる友人が合格だったと言えば、 70 パーセントの確率で合格だった、と思ってしまう。 しかし、実際はそもそもその出来事が起こる確率 を考慮に入れなければならない。 つまり、本当に合格していて友人が正しく伝えた場合と、 本当は不合格で友人が嘘をついた場合の両方があり、 本当に合格していた確率はこの二通りの比に等しいのであって、 友人の証言の信頼度とは異なる。 良く考えると、この誤解はナンセンスなのである。 なのに何故か、多くの人は証言の信頼度を、 出来事が起こる確率だと思ってしまう。

例えば、一万人に一人程度がかかる珍しい病気がある。 その検査薬は 95 パーセントの確かさで、 この病気にかかっているかどうか判定できるとせよ。 貴方がこの検査を受けてみたら、陽性だった(病気にかかっていると「証言」された)。 貴方が本当にこの病気にかかっている確率はいくらか。 検査薬の信頼度が 95 パーセントだから、95 パーセント? 全く違う。正しく計算すれば、およそ 0.2 パーセント程度である。 一万人のうちこの病気にかかっていない 9999 人の 5 パーセントが誤診されて、 500 人程度が陽性になるはずだが、 実際はこの中でせいぜい一人程度しか本当には感染していないのだから。

もっと極端な例を考えるといいかも知れない。 例えば、私はワインのブショネを全く判定できないとせよ。 ワインを飲むたびに「これはブショネ」とか「ブショネじゃない」 と、まったくでたらめに 50 パーセントの確率で答える。 この私が「これはブショネ」と断言したからと言って、 そのワインが本当にブショネである確率は 50 パーセントだろうか? 勿論、違う。

追加:上の病気の検査薬問題で、計算間違いがあったのを訂正(14 Jul. 2007)。 9999 人の 5 パーセントが約 50 人、と書いてあったが、 勿論、約 500 人。よって、実際にこの病気に感染している確率は、 約 2 パーセントでなくて、約 0.2 パーセント。