超計算屋、ワイン業界に挑む
8 時起床。資源ゴミ出し。珈琲。 小一時間ほど翻訳の仕事をして、出勤。 午前から事務仕事。 ポッカリあいた心の奥に詰め込むメシを食べさせるそんな学生食堂に行って、昼食。 すぐに帰ってきて事務に励む。 あちこちにお願いやお伺いのメイルを書き、 あちこちの研究室に行って経験者に教えを乞う。 早くも 17 時くらいに音を上げて帰る。 夕食は鍋用の残りの野菜を使って、煮込みラーメンを作った。 夜も翻訳仕事。
今日の車中の読書。 「その数学が戦略を決める」(I.エアーズ/山形浩生訳/文藝春秋)。 原題は "Super Crunchers"。 普通、クランチは「噛み砕く」と言うような意味だが、 科学分野では「ガリガリと(コンピュータで)数値計算をする」ことを、 "number crunch" と言う。 "Super crunch" とはそれの激しいもののことで、 巨大データベースでの統計処理を指すようだ。 この本の第一章は、ワインの品質をはじき出す方程式を導いた男の話。 最初にこの方程式が発表されたときには、 そんな計算でワインの繊細な味わいが予測できるはずがない、 とワイン業界で散々に叩かれたそうだ。 しかし、実際のところその方程式が意味しているのは、 例えば、偉大なボルドーワインの将来の価値(と言うより価格)は、 葡萄の育成期の気温と冬の降雨量の二つの因子だけでリーズナブルな予測ができる、 と言うことに過ぎない。 実際、ワインの専門家ならこれを否定しないと思う。 やはり自分たちの仕事をシロートに奪われてなるものか、 と良く理解しないままに攻撃してしまったのだろうか。
この本のポイントも、 数学的には初歩の統計手法に過ぎなくても、 今やそれをテラバイト級の巨大データベースがバックアップしており、 専門家の勘や経験を遥かに凌ぐ精度で予測計算できてしまうのだ、 と言うことに我々が感じる居心地の悪さにあるように思う。 例えば、 企業が消費者の行動や欲望をどこまでも計算しつくして、 利益を最大化していることは不気味だし、 「計算」の持つパワーへの素朴な恐怖感もある。 しかし、一方では "Super crunch" によって、 「専門家」はより重要な仕事ができるようになるかも知れない。 例えばワインの専門家は、 このワインの20年後の価値はどうかと言うことには、 「アッシェンフェルター方程式によれば、 現在の貨幣価値で 250万円プラスマイナス35万円の範囲に 確率 95 パーセントで収まるそうです」 とでも答えておけばいい。 実際、瓶詰めされて数年の自称グラン・ヴァンが 20 年後にどうなるかなんて、 誰にも分からないのだから。 それよりも、今飲んでいるこのワインがどのような味わいを持ち、 どんな料理と合い、どんなシチュエーションにふさわしく、 どんな物語と歴史を持ち、作り手はどんな人物で…、 と言うことに集中できた方が、もっと幸せに違いない。
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